腰部硬膜外ブロックの優秀な技術

腰部硬膜外ブロックの優秀な技術

 

意外とミスが多い腰部硬膜外ブロック

本ブロックは腰痛・神経痛疾患には最も人気のあるブロック注射です。外科系医師の多くは本ブロックを研修しますから外科医であるなら基本的には誰にでもできるブロックです。しかし、実際には手技が想像以上に難しく、ミスとなることが多いのです。


ミスとは硬膜外腔に注射液が入らない場合を言います。ミスをすると全く効果のない注射となりますが、医師にはミスを調べる方法がないため、ミスで効かないのか、成功しているのに効かないのかの区別がつきません。ひどい場合は100回のブロック中100回ミスということもあります。それが判明した理由は、ブロックを行う医師が交代した時点からブロックの効果が現れ始めたからです。交代以前は全てミスだったということです。


ブロックの刺入法のいろいろ

側臥位で丸くなって背中から注射するのがこのブロックのスタイルです。最近では「XP透視下でしかできない」という医師がいますが、基本的には透視を使わずに行います。


背骨の棘突起と棘突起の間から針を進める正中法とそこから1~2cm外側から斜めに針を進める傍正中法があります。が手技的には圧倒的に傍正中法の方が難しく、ワンランク上の手技です。高齢者では棘突起間隔がゼロになりますので正中法しかできない医師は針を刺すこともできなくなり、そこで手詰まりとなります。一般的な医師は正中法しかできませんので高齢者の脊椎にはブロックができない、となり、事実、高齢者の脊椎にブロックができる医師の数は極めて少なくなります。


医師にXPを読む能力が必要

脊椎は高齢になると変形するばかりでなく、若くても側弯や捻じれのある場合はブロックを行うことが極めて難しくなります。捻じれのある脊椎の立体構造を頭に入れながら本ブロックを正しく行える医師はさらに限られ、一握りとなります。


すなわち、若くても捻じれのある腰椎の場合、普通の医師に本ブロックをしてもらうと、とても痛かったり、ミスをされたりする確率が格段に上がります。よって、何度もミスされる場合は「腕のある医師」を探し出さなければなりません。捻りの立体構造をXP写真から読み取る能力が必要とされますが、簡単ではありません。


治療回数の目安

太い針を用いる医師か、細い針を用いる医師かによって治療回数は変わります。太い針(23G以上)では硬膜外腔の静脈叢を損傷したり、硬膜外腔を穿破したり、骨膜を傷つけて出血させたり、感染させたりなどのリスクが細い針より高くなります。繊細さのない医師が治療を行うのであれば毎週連続で3回が限界でしょう。しかし、細い25G針を用いるのであればそうしたリスクが減り、長期間の治療が可能になります。医師が正中法しかできない場合、長期連続は避けるべきです。その理由は棘間靭帯を針が通過するとそこが感染巣になりやすいからです。靭帯内は血流が疎ですから何度も何度も針を刺すべきではありません。傍正中法では筋肉内を針が通るのですぐに修復されやすく、頻回の治療に耐えます。


ミスをされれば効果なし

硬膜外ブロックでしばしば起こすミスは黄色靭帯の手前に薬剤を注射してしまうことです。ここは比較的注射の抵抗がないところなので硬膜外腔と勘違いされやすい場所です。ここに注射液を注入するというミスを犯しても、医師はそれをミスであると認識する手段がないので、医師は「成功している」と思っていることがしばしばあります。再度言いますが、ミスをしてもミスと認識することができません。唯一ミスを認識する方法は造影剤を用い、透視下で行うことです。よって最近の若い医師たちはXP透視を用いることが多くなっています。


しかし、造影剤は体に悪い異物であり肝臓や腎臓に負担をかけるだけでなくアナフィラキシーショックを起こす危険もあり、できるかぎり使いたくない薬剤です。さらにXP透視ではX線を浴びますからこれも体に悪影響を及ぼします。私はミスを認識する方法を身に着けています。


絶対に効く硬膜外ブロック

硬膜外ブロックは腰椎疾患であるならば必ず少しは効きます。しかし、ミスをしている場合があるので効くとは限りません。一般的な医師はミスをしたかもしれないことを患者に告げません。それはミスであることを調べる方法がないからです。しかし、私はブロック後に患者に「痛みが緩和したかどうか?」を訊ね、緩和していなければ「再度トライする」という方法をとります。この方法はたやすいようでたやすくありません。まず、ミスを認めることは医師のプライドが傷つくことであり、ミスの証拠がないのなら告白しないのは常識的に当然です。次に、医師がミスだと勘づいたとしても注射が痛い場合「もう一度やらせてください」と言っても患者がそれを許さないことがあります。第3にミスを認めると最悪の場合訴訟される恐れがあること。第4に、1回目で入りにくかった人は2回目も入りにくいのでミスをさらに繰り返す恐れがあること。そして、時間が倍かかり、その代金を請求できないので赤字になること。これらの理由から医師はミスを認めないものです。


ミスを認めてブロックを再度行うことに挑戦するには、かなりの勇気と根性と自己犠牲の精神が必要になります。一体、医師の誰がそんな自己犠牲を示してくれるでしょうか? 私は自分の良心に忠実でありたい。だからミスを告白し、成功するまでブロックを行います。そしてそれを行う技量も根性も持っています。だから絶対に効く硬膜外ブロックができるのです。逆に、「絶対に効く硬膜外ブロック」であるのに無効であった場合、この痛みは腰椎疾患ではないという推測を立てることができ、隠れている病気を見つけ出すことができるようになります。つまり診断技術も格段に上がります。


硬膜外ブロックでやってはいけないこと

硬膜外ブロックで医師がもっともやってはいけないことは、硬膜を破ってさらに針を進め、脊髄麻酔とすることです。脊髄麻酔になると急激に血圧が下がり、これが原因で毎年高齢者が何人か死亡しています。ペインクリニックでは腰部硬膜外ブロック後に1時間程度「足が動かない」場合がしばしばあります。が、この「足が動かない」という状態こそが硬膜を破って薬を入れてしまった証拠のサインです。


硬膜を破ると、そこから髄液が漏れて頭痛や吐き気が起こりますが、これをポストスパイナルヘッドエイク(以下PSH)と言い、1週間程度続くことが多く、場合によっては1か月近く続くことがあります。髄内に針が入り感染を起こすと髄膜炎になるリスクもあり、私は硬膜穿破をしないことが本ブロックではもっとも重要なことであると考えます。


しかしながら現場ではおよそ10~20%かそれ以上の割合で硬膜穿破をします。よって硬膜穿破はやむを得ないこと。本ブロックには不可避の合併症として位置づけられています。しかし、そういう心掛けでこのブロックをすべきではありません。なぜなら私の場合は硬膜穿破を起こす頻度は1万件で1~2回だからです。「絶対に硬膜穿破をしない」と心に誓って精進すれば、本合併症は減らすことができるものです。


神経根損傷

脊髄や馬尾神経に針を刺して薬液を注入すると神経が破壊されて永遠に麻痺が残ることがあります。絶対にやってはいけない合併症です。しかし、未熟な医師はブロックを行う際に患者をしばしば強く痛がらせます。そのため神経に針を刺してしまったときに患者が痛みを訴えたとしても、それは手技上の痛みの訴えなのか、神経に針を刺して痛みを訴えたのかの区別がつきません。よって「注射の時に患者を痛がらせる医師は神経損傷を起こしても気づかない」という最悪の事態を招く確率が高くなります。よって硬膜外ブロックは「痛くさせない技術」を持つ医師に行ってもらわないとリスクが高いということがわかります。

痛がらせる・痛がらせないはリスクの高さと直結します。


痛くない硬膜外ブロック注射法

硬膜外ブロックが最も痛い箇所は骨膜です。骨膜に針の先が刺さった場合にもっとも強い痛みが出ます。通常、硬膜外ブロックは局所麻酔を行いますが、骨膜の深さまで薬が浸潤することがありませんので針が骨膜に刺さると激痛になります。


小さな骨格の方、変形腰椎の方、腰椎に捻じれがある方の場合、針が骨膜に当たらずに椎弓間孔に1回で入る確率は低くなり、未熟な医師の場合は何度も椎弓や関節突起に針を刺し、そのたびに激痛を与えてしまいます。これを防ぐにはカテラン針などで椎弓の付近まで局所麻酔をする必要がありますが、それを行う技術や方法を知らないため患者に痛みを与えてしまう場合が度々あります。痛くない硬膜外ブロックを行うには特殊な技術が必要です。硬膜外ブロックの技術は「医師がみな均等」ではあり得ません。非常に個人差の大きい技術です。


腰部硬膜外ブロックをカジュアル化

腰部硬膜外ブロックは上記のようなリスクがあるため「めったに行ってはいけないブロック注射」という位置づけにあります。しかし、無謀な医師が自分を過信して本ブロックを行うことで医療過誤が絶えません。それで「腰部硬膜外ブロックはやめておけ」といううわさが一般人の間で広がっています。


しかし、腕の良い医師にかかれば本ブロックは安全かつ極めて効果の高いブロックとなり、カジュアルに受けられるようになります。そのハードルは低くありませんが、腕のよい医師を見つけることができたのであれば、試すべき治療です。