ブロック注射の予備知識

ブロック注射の真の意味

ブロック注射の意味を知らない方が大半を占めます。大半の方々は「痛みを一時的に止めるだけの注射」と思っています。つまり、注射の効果が切れると再びもとの痛みに戻ってしまうので意味のない(医者がお金を儲けるためだけの)診療行為であると思っているかたが大半のようです。事実はそうではなく、交感神経をブロックして血管を拡張させ、炎症や浮腫に陥って血行不良になっている箇所の血流を改善させることが目的です。血流の改善こそが損傷した細胞を修復させるための真の治療といえます。よって私は「痛みを止める」ことに治療の重点を置くのではなく、常に「血流改善」に重点を置いています。血流が改善すれば必ずや損傷した組織は修復に向かいます。ですから一度のブロック注射が修復のひきがねとなり、たった1回でいろんな症状が完治してしまうことも珍しくありません。半年も1年も、どこの医者にかかっても治らなかった症状が、たった1度のブロックで治ったという不思議な話は、ペインクリニック科では普通に起こる出来事なのです。そうした劇的な治療効果ありの治療がなぜ世間に広がらないのか?はそれを行う医師の技量により効果が一定ではない、リスクの問題、コスト面で割りに遭わないなどの問題があるからです。

安全で痛みの少ないブロックが重要

ブロックを気軽に受けることができない理由はブロック自体が危険だからです。痛くないブロック、安全で繊細なブロックを行う技量は医師の修業や経験により大差がつきます。厚生労働省が推進する「質の高い医療を全国民に平等に」という理念からかけ離れ、治療効果も安全性もブロックでは医師間の技量で差が出てしまいます。しかし、どの医師が技量が高いのか?は患者には判別できないですし、我々もそれを公表できません。技量の高いブロック医を見つけることは容易ではありません。

ブロック注射はムラがある

ブロック注射は狙った箇所の血流増進が最大の目的です。しかし、狙った箇所が間違いであってもある程度効果が出てしまいます。その理由は「痛みを麻痺」させてしまえるからです。つまり、そもそも原因箇所に薬が浸潤しなくても数時間なら効果が出てしまうため、その「狙った箇所」が真の原因箇所であるかどうかは医師にも患者にもわかりません。よってブロックが著効するかどうかは医師の裁量に左右されます。薬の浸潤の仕方も毎回違うので「運任せ」のこともあります。そうしたムラのせいで「一度のブロックで完治」の人もいれば「全く効果なし」の人もいます。本気で病気を治したいのであれば「効果なし=医者不信」とせず、根気よく治療を続ける心構えが必要です。
 

ブロックと高齢者

高齢者になると脊椎が変形しますからブロック注射が成功しにくくなります。若い人なら3分で終了するブロックも、高齢者では30分以上かかって結局入らないこともしばしばあります。忙しい外来で30分も時間を浪費すれば外来が混雑し、そういう患者が4~5名いるだけで、病院の終了時間が2時間も延長され…他の患者様に多大な迷惑をかけ、そして職員にも迷惑をかけ、病院側は大きな痛手を受けます。さらに、高齢者はブロックで循環不全性ショックになる確率が高く、病院経営側としては「やってもらっては困ること」です。高齢者が医師にブロックを切望する際には、無理難題をお願いしているということを患者側は知っておいたほうがよいでしょう。それを敢えて行う医師は勇気と慈愛に満ちているということです。高齢者がブロックを受ける際は、最低限のマナーとして「自分の体は注射が難しい。病院にも他の患者にも多大に迷惑をかけている。」ことを念頭に置き、それを行ってくれる医師に感謝の気持ちを忘れないことです。そうでなければ全国に「高齢者に敢えてブロック治療しよう」とする医師がいなくなってしまいます。本来、高齢者のブロックと若者のブロックが同じ値段設定であることが不条理なのですから。
 

ブロックを行う医師に敬意を

ブロック注射ができる医師の数は多くありません。加えて難易度の高いブロック注射ができる医師の数はもっと少なくなります。その理由はブロック注射をすることに重い責任があるからと言えます。それはミスをしたときの責任が極めて重く医師一人にのしかかるからです。手術ミスは病院が責任を負いますが、ブロックミスはほぼ医師個人に全責任がかかります。よって医師にとっては手術を行うよりもブロックを行う方がリスクが高いといえます。リスクが高いにもかかわらず、ブロックをどれほど行っても医師の給料は同じですから見合わないのです。見合わないのに医師がブロックを続ける理由は「他のどんな治療よりもブロックは患者を幸せにすることができる」ことを知っているからです。つまり、ブロックは「ハイリスク、ハイリターン」です。そのリスクの部分を全て医師が責任を負い、ハイリターンだけを患者に捧げる。そうやって患者を幸せにすることを第一に考えてきた医師は「高い技術のブロック」を身につけられるようになります。よって、医師がブロックを患者に勧めるとき、それはお金儲けの商売根性ではなく、「目の前の患者を幸せにして差し上げよう」という心意気で勧めているわけです。真実を言うと、ブロックせずに患者を何度も通院させたほうが医者は楽してお金を儲けることができます。それでも患者の幸せを考える医師はブロックを患者に勧めるわけですから、ブロックを行う医師に敬意を払いましょう。もちろん、そうだとしても医師からブロックを勧められた際に断ってもかまいません。断る自由は保証されています。
 

ブロック効果よりも安全性を重視

ブロック注射は深い箇所の主要部分に薬液を注入しますのでどこまで行っても危険行為であることに変わりありません。手技的には手術と同じ扱いになります。手術と異なるところはブロックは何度も繰り返し行えるということ。よって回数を重ねるほど事故に遭う確率が高くなっていきます。ですからブロック治療を受けるときは、「早く的確にできる」ことよりも「極めて安全に注意深く慎重にできる」ことを最優先にして医師を選ぶことをお勧めします。「この先生は乱暴だなあ」と感じるようであれば避けたほうがいいでしょう。あくまで私意見ですが、注射の痛さでていねいさがある程度わかると思われます。
 

ブロック治療の回数と期間

治療に要するブロックの回数や期間は「症状によって全く異なる!」ことを大半の患者様は知りません。ブロックの話は高齢者の集会でしばしば耳にします。「俺は1回ですっきり治った」とか「注射した後に痛みがひどくなってえらい目にあった」とか、うわさ話に花が咲きます。しかし、ブロックの種類はいろいろあって、腰痛といえども病気の種類も数えられないほどあって、一人一人の病態が全く異なります。ブロックをしながら仕事をし続けている人はほぼ治ることはなく、「仕事を続けるための現状維持」のためにブロックを定期的に行います。その場合、治療期間は「仕事を続けている間じゅうずっと」になります。また、医師によっては「この注射は3回までしかできません。」とブロックの継続を断固拒否する者もいます。患者の間でもうわさが広がり「ブロックを続けるなんて危険なことをやってはいけない」と諭す人もいるでしょう。一体どれが真実なのか?患者は戸惑うことになります。真実を言えば、ブロックに医学的な限界や制限はありません。しかし、金銭的に・医師の技術的に・患者と医師の根気で・制限があります。金銭的には、保険連合会が週に1回までしかブロックの料金を支払ってくれません。技術的には、神経根ブロックなど侵襲的な手技は連続3回までと言われています。よって愛護的なブロックができる医師の場合は無制限にブロックを行えますが、これは医師の技術力に依存しています。最後に「治療効果が低い」場合は医師と患者のモチベーションが激減して途中でギブアップしたくなります。継続するには根気と不屈の根性が必要です。まとめると、ブロック回数に制限はありませんが、結局医師の技量により制限回数が設定されるということになります。
 

気になるブロックリスク

一般的に言われているリスクは針により血管・神経・靱帯・結合組織・筋線維などが損傷すること。それに伴う腫れ・出血・感染などです。しかし、これらが「後遺症を残すほどの重症」になることは、何か他に基礎疾患を持っている場合を除けば、そうそうないことです。もっとも注意すべき命に関わるリスクは「薬液が深く脊髄内に入り込み、麻酔が効きすぎて血圧が低下→循環不全→場合によっては死」となることです。ブロックする場所が頭に近いほどリスクは高く、頚部の硬膜外ブロックでミスをすれば意識がなくなり自発呼吸をしなくなります。高血圧や糖尿病・心臓病など基礎疾患があるとそのリスクは格段に高くなります。また年齢が高いほどミスしたときに重篤になりやすいでしょう。ただし、それを過度に怖がる必要はありません。万一のときは救急蘇生させる技術が医師にはありますし、ベテランの医師であればそうしたミスを犯す確率が極めて低いからです。まとめると、ブロックリスクは医師の技量と患者の基礎疾患の重篤さに依存し、加えて病院のマンパワーにもよります。医師がベテランで、患者が心臓系の基礎疾患を持っていない場合、高齢ではない場合リスクは極めて低いでしょう。しかし、その逆は要注意であり、さらにマンパワーが少ない病院の場合は万一の時の対処が遅れてしまいます。ちなみに私の場合、硬膜外ブロックを深く刺してしまうミスは約10000回に1回です。そして、深く刺してしまった場合でも途中で気づきますので、患者が重篤な状態にはなりません。ただし、そんな私でも予期せぬ出来事を経験しました。それはブロックが成功しミスがないにもかかわらず、患者の体調不良で不整脈→意識消失となったことを過去に1例だけ経験しています。もちろん無事でしたし、その患者は現在も私を信用してブロック注射に通ってこられています。
 

慢性疾患にリバウンドはほぼ必須

ブロックを行うとその後数日以内にブロック前よりも強い痛みが出る場合があり、これをリバウンドと呼んでいます。たいていの場合、リバウンド症状は数日以内に消失し、それと同時に痛み症状がぶり返さなくなり治癒に向かいます。つまり、治っていくための山があるわけです。この山は強く出る人と出ない人がいますが、慢性的に痛みがある人の場合、わずかなリバウンドも含めれば、ほとんどの人にリバウンドが出ると思われます。リバウンドの原因は全くわかっていませんが、私は神経細胞が元気になったために痛み信号も元気になったためだろうと推測しています。このリバウンドを「症状の悪化」ととらえると、医師と患者は不信感に満ち、治療がそこで終わってしまいかねません野で注意が必要です。  

ブロック注射カジュアル化の努力

ブロック注射はリスクある手技であり気軽に打てるものではないことは確かです。特に高齢者へのブロックはリスクが高く、医師たちは今でも高齢者へのブロックを避けて通っています。しかしながら、死の1日前まで元気に動ける肉体を作り上げるには、ブロックの力を借りざるを得ません。寝たきりや認知症になれば、家族の負担は莫大になり、介護費用も莫大に膨れ上がります。そうならない社会を作るには、今のところブロックの絶大なる治療効果に期待するしか方法がありません。すなわち、寝たきりになる前に、多くの高齢者がブロックを受ければ、寝たきり化を防止することができます。しかし、そのためには高い技術のあるブロック専門医を世の中に多く輩出していかなければなりません。そして我々国民にもブロックの意味と価値を知っていただき、寝たきりになる前にブロックをカジュアルに受けていただく知識の普及をしていかなければならないと考えています。多少のリスクはあるものの、ブロックを受けて「そこそこ歩けるようにしておく」ことは国家の未来、いや人類の未来のためになると思われます。私が日夜、ブロック技術を切磋琢磨してきたのは、ブロックには医療の未来を託すだけの力があることを身にしみて感じているからです。どうか、医師だけでなく、患者様方もご協力をお願いしたいと思います。  

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